11月
私の隣人たちは私を縛る人たち
私を縛る人たち、お元気ですか?
日割りの記録
11/1(金) 4日ぶりの出社は一体どんな阿鼻叫喚が待っているのかと身構えて行ったが、自分が想像していたのと同程度の阿鼻叫喚具合だったため、絶望するほどでは無かった。メールが329件溜まっていてびっくりした(共有メールなのでいつも通り)。あと171件来てくれればキリが良かったのに。ただ運悪く、インタビューや打ち合わせが重なっている日だったので自席に座れたのは夕方だった。なんてことだ!
今度の若手のごはん会に誘ってもらえて嬉しい。
11/2(土) ピアノは発表会前の最後のレッスン。今日は練習のために1日空けておいたので、弾いたりダラダラしたりを繰り返せて良かった。目が日に日に悪くなっていて、手元と楽譜を行き来すると焦点を合わせるのに時間がかかる。発表会に出るのは不安しかないが、できることはやったのでよしとする。彼氏からの「発表会のあとは何するの?」という社交質問に対して「何もしない、もしくは仕事」と回答したことを後悔しながら寝た。真実ではあるけどもう少し彼氏用の回答でもよかった。発表会前日になって服に迷い始めて両親の意見を仰ぐ。
11/3(日) 朝7時から美容院。私も眠いし美容師さんも大変だ。ピアノの発表会本番。完璧とはいかなかったけどまあよいでしょうという感じ。たっぷり練習して臨んだし思い残すことはない。楽しかった。祖母にも聞いてもらいたかった。来年は何を弾くか今から考える。
レストランで出された量が多くて帰ってからずっと寝ていた。夜は彼氏と電話。「?」と思うことが増えてきた。そういえばもう半年付き合っているのであり、ここからが恋愛本番である。
11/4(月) 何も予定のない日は漠然とした孤独に向き合うことになりやすい。
インタビューをまとめている。何か壮大な話をしている。壮大な話のほうが好き。こうやって仕事で強制的に経済のことを考えていると、経済のことを嫌っていた学生までの自分を思って不思議な気がする。でも公利のことを考えるのは哲学と逆行しないような気もしないでもない。会計よりは少なくとも経済のほうが、教授たちの雰囲気は似ている。
それにしてもシュンペーターの引用率の高さよ。シュンペーターというのはえらい人なんだろう。
インタビュー記事作成の終わりが見えなくて飽きた。千里の道すぎる。孤独さに耐えきれず「自分がパーティを主催するとしたら来てほしい人リスト」を作ってなんとか耐える。
11/5(火) 先週、忌引で休んだことがそんなに罪なことだったとは思えないのだが、まるで罰のように仕事は無限に増大する。古瀬戸にはまたおじいさん集団がいた。おじいさんの集団はいつも同じ席にいるが、あれがいつも同じおじいさん集団なのか、おじいさんの集団用の席というだけなのか、わからない。
仕事はとにかく崩せるところから崩すという作業だけであっという間に一日が終わってしまう。今週はきっとこの調子だろう。皆が帰ったあとの夜の会社の窓には私ばかりが映り、見たい外は見えない。仕方なく両手を上に伸ばしたら自分の腰の細さが見えた。上に伸びると人間は平たくなるから、見えると同時にお腹と背中がつく感じを得てもいた。上空にあった両手をそのまま腰に持ってきて強く持つと落ち着く感じがする。自分の腰が好きで、このとき腰は完全に対象化されてしまっている。自分の身体を捉えるときの細分化は年々進んでいて、ある部位はとても好きで、ある部位は口汚く罵ることもできる。腰は対象化されているにも関わらず相変わらず上下の半身を繋ぎ続けており、不思議だ。窓辺に来てから不思議だと思うまでが10分くらいで、「なるほど不思議だ」と思いながら席に戻る。
集中力がめっきり無くなっていて困る。帰ってからはスマホを見ないとか今一度子供のルールに身を置いたほうがいいかもしれない。日記にあれを書きたいからとペンを持った2秒後には明日の洋服のことを考えていて、今日の洋服を脱いでいる間に仕事のことを思い出して半分脱いだままで仕事をし、やけに寒くて着替えすらまだだったことにやっと気がつくといった有様で、現代人の集中力は金魚並みとかつて親友が教えてくれたことは間違っていないようだ。
11/6(水) 一方その頃、母校の礼拝(朝礼みたいなもの)では、恩師が私の高校時代の活動を紹介してくれたらしい。10年も前の生徒の話なんて全校生徒から総スカンではなかったか気になって仕方ない。しかし先生たちが色々な話を持ち回りでする礼拝はネタを探すのが大変と聞いたことがあり、1ネタを提供できたなら嬉しい。
原稿作成に追われている。原稿を作りながら、啓示のように「ここはメタルでしょう」と思ったのでジャーマンメタルのプレイリストを聴きながら書いていた。遠い遠い記憶で5年前に新潮社の面接官が「☁︎☁︎とか良いっすよね~」とジャーマンメタルバンドをおすすめしてくれたのだが、「☁︎☁︎」に入る肝心のバンド名がどうしても思い出せない。まだ彼が新潮社にいるなら聞きにいきたいくらいだ。
家に帰ると暗闇の中、庭のカンナがぼーっと赤く光っていた。こんな時期にカンナが咲いているのは異常。
11/7(木) めまいがひどい。たまにめまいがひどい日が来る。ぐるぐるというよりはふわふわ。病院に行ったところで、貧血とか自律神経とか、疲労とかのぼんやりした原因にぼんやりした薬と解決法が与えられるだけで、一層病院嫌いが加速するだけだろう。医療はぼんやりしている。「患部はここです」と言える病気のなんと珍しいことか。
11/8(金) なんとか今週中には、と思う最低限の仕事を終えて気分はいいが身体はぐったり。日記を書こうと思いながらパソコンを抱えて寝たらしい。4日休んだ埋め合わせは2週間くらいかかりそうだ。
11/9(土) 何かで見た、犬に愛を示す方法の1つ「犬がくつろいでいるときに自ら寄って行って撫でる」を無意識にやることが多い。確かに幸福そうにしていると思う。でも犬がくつろいでいるときに自ら寄って行って撫でない方が難しい気もする。
ピアノに行き、先週の発表会の感想などを喋る。先生に「よく弾けましたね」と言われて嬉しい。練習のメニューを言い当てられて驚いた。プロにはなんでもお見通しだ。
初、ネイルサロン。前のピアノの先生が亡くなったあとで、同じ先生に習っていた人がネイリストになったと聞いて。ネイルはさっぱり何をされるかよくわからなかったので手だけ差し出した状態で、今トイレに行きたくなったらどうしようということばかり考えていた。仕方ないのでネイリストの人相手にあることないこと喋っていた。創作するのが好きだ。人に物語る職業になりたい。それも本当かどうかギリギリわからないラインの。スーパーリアリズムだ。日常を暮らす人々の中に登場していってたった1人で演じてそっと帰っていく職業。ネイリストは他人の手にたくさん触るうちに開眼したりしないんだろうか?
夜は両親と外食。デイジーの花の味が蕗のとうと似ていたのは発見だった。家族みんなできちんとおしゃれをして出かけるのは好き。
帰ってからオンラインで読書会。1時間くらいが長すぎずちょうど良い。1回目より感じが掴めた気がする。読書会のやり方も、ユリシーズの楽しみ方も。
11/10(日) 誕生日になった!おめでとう。ゴー☆ジャスさんも、デーモン小暮さんも、誕生日おめでとう。私はこの2人と誕生日が同じことが何よりの自慢だ。
何人もが誕生日おめでとうと言ってくれた。覚えていてくれるのも、思い出して連絡までくれるのも、全てが得難いことだ。覚えていなかった人も、ありがとう。
去年の誕生日は精神が全く安定しておらずハイになっていたことを思い出せば、1年かけて手に入れた、この落ち着いた自分自身と隣人たちは本当に得難いものだ。去年もあれはあれで楽しかったので肯定するが、あれをずっと続けたいならまず強靭な肉体を手に入れないといけないと思う。
1ヶ月ぶりのまともなデートをした!この1ヶ月は仕事や風邪や色々で全然ゆっくり会えなかった。やっと会えて本当に嬉しい。若者が彼氏と1ヶ月も会わず仕事をこなしているこの地球はおかしい。彼氏の小さい鞄から次々プレゼントが出てきて「恋人はサンタクロース」かと思った。
同じ時間、親友には彼氏ができていた!本当に嬉しいことの連続。今日が日曜日でよかったと心底思った。
一日中君たちからの愛に囲まれて体力を使い果たしてしまって、最低限の片付けもせず君たちからのプレゼントに埋もれて寝た。
11/11(月) 会社のお姉さんにもお祝いしてもらったり、追加のメッセージをもらったりで誕生日の余韻が嬉しい。身体はぐったりしている。
仕事はゲラ出校までの束の間の休息で、だいぶ焦りは減ってきた。でもこの休息は長くは続かないことを知っているので、サボりすぎず働きすぎず。
高校の恩師から、私のことを話した礼拝は無事に終えたとの連絡。愛に囲まれている。
11/12(火) 下版を安静に迎えたい一心で1分もサボらずに仕事をするが、頑張って早く終わらせても浮いた時間にどんどん新たな仕事が舞い込んで、あたかも次々と降る雪のようで美しい。
彼氏はなんだか私を置き去りに生活しているようだし。早く寝たいけど「おくROOM」で長時間遊んでしまった。しばらくして飽きて、陽水のライブ映像を見た。若い陽水のカクカクした神経質そうな優しそうな見た目。そろそろライブをやって欲しいけどその前に死んじゃうのかもしれない。悲しくて陽水に抱かれて眠る。
11/13(水) 大学の友達と来月会う約束ができて嬉しい。この友達はとてもとても優しい人で、私が「もどり道」ライブの陽水の語りを5分くらい長尺で真似しても適度な相槌を打ちながら耳を傾けてくれる人だ。得難い。
着々と下版が迫っているが終わるのだろうか? 方々に依頼しているものが少しずつ期限を過ぎていて心配だ。待ちの状態だから逆にやることが少ない。とても忙しかったりほとんど無かったり、一日単位でコロコロ変わるスピード感をどうにかならしていきたい。
11/14(木) 若手のごはんの会だった。二次会で同期が、私と同期で良かったと思っているという話を滔々と語ってくれた。たった1人の同期なので気を遣ってはいるが、仲が良いわけでも悪いわけでもなく、大した関わりもなく、そうまでして語る意味はよくわからなかった。嫌だったのは周りの人で、同期の真面目な語りをにやにやと聞いていた(ように見えた)。確かに頓珍漢だったが、真面目な人にその態度はないだろうと思った。
11/15(金) 著者から来るビジネスメールの中で良いと思った言い回しを自分の中に蓄積し、自分も機会があれば使うことでビジネスメールは人間の社会を好循環する。
下版でもないのになぜか夜は更ける(平社員の残業は通常20時までと決まっている)。疲れると他者に寄りかかりたくなる。私のお気に入りの他者である、九段下付近の他者(首都高)を見て帰った。金曜22時手前の首都高も美しい。金曜は街全体におしゃれな人が多くて良い。
他人から見て大したことのないことに驚いたり悲しんだり喜んだり、感情を大きく動かされるのは目が曇っているからだ。人生をかけて感受性を捨て去るべきだ。幸いにも時代の流れは味方してくれていて、今や人類は自律と節制の時代に投げ込まれた。
11/16(土) ピアノ。一週間ピアノを触っていなくて先生に申し訳ない。とにかく眠い。夕方になってやっと活動的になった。
11/17(日) 彼氏の友達と彼氏が色とりどりのお昼ごはんを作ってくれた。とてもおいしかった。彼氏の友達は華やかで明るい人で緊張する。なので必要以上に彼氏のほうばかり見る。
彼氏の友達の恋愛の話を少しだけ聴かせてもらったが、私の目からは何一つ心配事はないように見えた。恋愛というのは楽しそうだ。
3人で犬がいるバーに行った。彼氏の友達はくじ引きで選ぶウイスキーを注文した。最も人慣れしている犬が率先して彼氏の友達の膝に座った。
11/18 下版。今回はかなり長引き、いつの間にか深夜になった。
11/19 下版。今さらながら神保町の人間は本を読んでいる率が高い。お昼休みのカフェは本読みばかり。もっと解放されたらどうだ?と問いかけたくなる。
11/21(木) 大学の友達とドレスコーズのハネムーンツアーを見に行った。彼のすごいところは音楽をお薦めするときに自意識を乗せないところ。相手に聴かせたい曲ではなく相手が聴いたら嬉しがりそうな曲を的確に言い当てる。
志磨遼平は一時期より死にそうではなくなって円熟味が増し、保育士さんみたいだった。ライブはコンセプト通りに過去の曲を次々と映し出して進み、毛皮のマリーズの解散のくだりなどは孤独そうで聞いていられなかった。たぶん最近出た自伝の『ぼくだけはブルー』と大体同じ内容なんだと思う。友達は志磨遼平のことを、歌詞どおり止まると死ぬ人だし今までずっと止まっていなかったことがわかったと言っていた。
客入れでクロディーヌロンジェが選曲されていたのがよかった。
ライブ終わりは色々と喋って、悩み相談に付き合わせたりした。いい感じに自己矛盾時代に引き戻された。言われたこととしては、「音楽を硬派か軟派かの軸で見ることは良いことだ」「前にみんなでカラオケに行った日は楽しかった」「(私は)どこでもそれなりに働ける人で、免許も必要に駆られさえすれば取れる」「(私に)生活感が出たが、少しはあったほうが親しみやすい」「ロックシンガーで老齢になっても痩せたままの人は少数で、大抵は太るか骨太になるかし、それは生命を維持するために仕方がないことだ」など。この友達のすごいところその2は、他人に対する解釈と評価が的確なところで、そのため、喋るたびに少し落ち込んで帰ることになる。
11/22(金) 休み。病院と犬の散歩。
11/23(土) 浜松国際音楽コンクールを見に、日帰りで母と浜松に。東海道新幹線は1時間半ほど遅れており駅は大混雑・大混乱だった。春華堂のスイーツバンクが面白かった。大きい椅子や机に見立てた建物で、内装も、家の中のようにしてあって凝っている。
今日は本選1日目で、ロバートビリー氏のプロコフィエフ、小林海都氏のバルトーク、ヨナスアウミラー氏のブラームスを聴いた。3年後の大会はぜひ本選2日間とも来たい。
11/24(日) 配信で本選の続きを見た。最後に演奏した鈴木愛美氏のベートーヴェンが圧巻で、感動しているうちにあれよあれよと優勝していた。ちなみに鈴木氏は室内楽賞も聴衆賞も札幌市長賞もワルシャワ市長賞も受賞していた。
昨日見たロバートビリー氏は6位、小林海都氏は3位、ヨナスアウミラー氏は2位だった。若いピアニストたちが鎬を削っていた。
11/25(月) 仕事終わりに親友と笹塚。秘密の話をたくさんした。
帰り道は冷気が疲れに痛い。
11/26(火) 今の編集部を辞めた先輩たちとごはん。ウーン、色々なキャリアがある。ウーン、マンダム。会社の噂話をしていると、「えっあんなに優しいあの人がそんなことを?」となることもあるし、逆に「あの人にそんなに立派な一面が!」となることもある。語り部によるギャップはいたるところで発生する。もし人によって態度を変えているならば全然信用できないと思ってしまうが、実際には意図がある場合はごくわずかで、そもそも会社という場所が人間の多面性を表出させやすい場所なのかもしれないと思い直す。私もおそらく語る人によって全く違う印象がある人間の1人だろう。
11/27(水) 22時から23時にかけてベッドで激しく泣いていた記憶があり、よしこれはブログに書こうと思ったはずなのだが、なぜそのようなことになったのか思い出すことができない。その時から理由などなかったのかもしれないし、あるいは正しく泣いてすべて忘却の彼方に流し去ったのかもしれない。
アウグスティヌスの忘却への問いみたいだ(?)
11/28(木) せっかく来てくれた新しい人のことを判然としない理由で編集長が叱責しており、また辞めてしまわないか心配だ。
仕事のことを考えながら彼氏に会い、しばらくして目の前にいるのが彼氏だと思い出した。喋っているうちに解される感じがある。解されすぎてレストランにありえない忘れ物をした。この振り幅が年月を過剰に進める。
11/29(金) 快調でないことは確かで悲しい。なぜいつも金曜に体調を崩すのか。
11/30(土) 風邪のような気もするし、疲れでだるいだけのような気もするし、よくわからなかったので無視して旅行を決行。ピアノは休んだ。
西岐阜に到着してすぐにスギドラッグ市橋店に行き、丁寧な薬剤師さんに色々教えてもらって薬を入手。スギドラッグの丁寧な薬剤師さん、ありがとう。
今回の1番の目的だった岐阜県美術館のルドン展。とても良かった。
下呂に移動し、温泉で湯治(というほど長期滞在ではないが)。これまで温泉で色々治るという伝説や民話は半信半疑だったのだが、実際に風邪の状態で温泉に入ってみると、本当に治る感覚があり、温泉はさすがだなと感動してしまった。もちろん完全に本調子に戻ったわけではないがなんとかなりそうではあった。
紅葉の季節だからか、岐阜は混んでいた。混んでいるこの人々の中に、どうやら元彼もいたらしいことを知り、過去の厄介な記憶に包まれて眠りについた。ルドンで最も惹かれた絵のタイトルは「夢は死によって終わる」
音楽
・EDGUY「Space Police in Osaka」。これは神保町ブックフェスの日に、知らないバンドを聞きたくて中古の音楽ショップで最初に掴んだから買ってきたやつ。エドガイの大阪でのライブを収録したもの。エドガイ自体知らなかったし、ジャケットもなんか変(骨の龍?を掴んだ宇宙服にサングラスの中年男性がドリルを持って宇宙にいる)。聞いてみたらめちゃくちゃ良い曲ばかりで当たりだった。しっかりしたジャーマンメタル。メタルが1番涙腺に来るので不覚にも泣いた。音質はかなり悪い。途中でファルコのカバーも歌ってくれる。ファルコなんて……あの頃みんなが聞いていた「10代の音楽」すぎる。ロックミーアマデウスなんて久しぶりに聞いた。「パン パン粉 パン粉 パン パン粉」の空耳でお馴染みの……。ひたすらロックを聞いていた高校生のときにNHKがMVを流し続ける番組をやっていて、それでファルコの次に流れていたのがヨーロッパの「ファイナルカウントダウン」だったと思う。ファイナルカウントダウンといえば「耳を噛んだ」の空耳でお馴染みの……。と、様々な郷愁を呼び起こす音楽だった。エドガイ、好きなバンドになってしまったのに残念ながら最近は目立った活動をしていないようだ。
・カレーの会「かれぃのかぃ」
アルバムを聞いたときの衝撃はすごいもので、とにかく完成度が高い。何を言っても陳腐になるが福音したいので一応頑張ると、タイムスリップしたかと思う「当時感」があるのと(「昭和的ポップス」の再生産が増えてきた令和の時代にも関わらず!)、若きゴダイゴのよきライバルでしたと言われても信じてしまうような、根底に流れる洒脱な旅思想がいい。
このブログでは一般人は名前を出さないようにつとめているが、過去に苗字を出してしまった先輩が1人だけいる。数回喋ったことがあるかないかくらいの人で絶対こんなブログに辿り着かないと思ったのと、出したほうが文章的に面白いと思ったからだったが、なんと最近インスタで近況を見れるようになってしまった。いやはや。そしてその先輩のユニットがこのカレーの会。
知り合いがアルバムを作るのは今年で3組目だ。みんな完成度が高くてすごい。デジタルですぐに聴けて良い時代だ。
先輩が言語の達人だったことをアルバムを聞くまで忘れていた。ヒンディー語、ドイツ語、中国語、アイヌ語などなど縦横無尽に諸外国語が登場する。無駄もない。聞いているだけで耳が楽しい。
・井上陽水「覚めない夢」
・今月の軟弱コンテンツ疲れを癒してくれたのは加山雄三だったと思う。「光進丸」は良い曲だが、火災を思うといたたまれない。
・誰もが知る「おもちゃのチャチャチャ」は、作詞が野坂昭如だったことを知った。ちゃんと聞くと、「甘茶でチャチャチャ 渋茶でチャ」という部分や「操り人形 糸を切ろ」という部分など、野坂昭如の才能に打ちひしがれる。
一般に流布している、吉岡治が手を加えたバージョンも清い童謡として素晴らしいが、野坂昭如の大人向け深夜番組用に作られたオリジナルバージョンもぜひ広まってほしい。
・誕生日に彼氏からスネークマンショーの「急いで口で吸え」と「戦争反対」の2枚をもらった。
どちらのアルバムもコントと曲が交互になっている。
急いで口で吸えのほうは、「正義と真実」という、選挙カーと廃品回収者がマイクを戦わせるコントの後にクラウスノミの荘厳なcold songが流れるところがお気に入り。
戦争反対のほうは、高橋幸宏「今日、恋が」、MELON「HONEY DEW」のあたりがお気に入りで、最後の戦場でインタビューを行うコントはかなり辛くなる。
早くベストヒットUSAを毎週見ている友達が欲しい。
・11/7放送分。ブライアン・フェリーとダミアーノ・デイヴィッドが流れた。
ダミアーノのソロの「Silverlines」は、変なMVに変な歌詞だが、限りない才能があることだけは確かにわかるような、不思議な曲だった。
ところでベストヒットUSAは父と喋りながら見るのが好きだが、ダミアーノについての知識を父に披露しようと、「この人は健康な肉体に芸術が宿るって言ってるんだよ」と話していたところ、テレビの中でも小林克也さんが同じエピソードを喋りだした。大好きで毎週見ている克也さんとエピソードの選出センスが似てきたようで大変嬉しい。
・11/21放送分。ケンドリック・ラマーの新曲「Not Like Us」が流れ、硬派でとてもかっこよかった。来年のスーパーボウルに抜擢されているとのこと。
本
・先月に続き『実存・空間・建築』を読んでいる。
「建築的空間は実存的空間の『具体化』であり、『建築は、いつも、人間の諸条件を改善しようとする願望を反映するもの』」
・仕事で金利と物価の歴史を調べているが難しくて全くわからない。誰かわかりやすく教えてほしい。金利とはなにで、物価とはなにで、両者の相互関係と、政局や時勢から予想される両者の将来と、人間のすべきこととなさないべきこと、疑問は尽きない。
その他
予測できるということが勘が働くということと似ていると感じたことはまだないが、勘が働くということを考えるとき、予測できるということを思っていることが多い。これは信託が論理的な営みであるという考えに依っているかもしれない。
勘が働くときに何が起こっているか? 人間への信頼を土台に意識が他人へ向いていること。そうして収集した他人の言動の蓄積が関係している。
私を縛る人たち、君たちの縄によって、私は私自身がどこにいるのかがわかる。
では、私が「忘却」という名を口にして、同じように、自分の口にするものを認識する場合はどうでしょうか。それを認識できるのは、記憶しているからではないでしょうか。
……
私たちは自分の記憶するものを記憶のうちに保持するのであり、もし忘却を記憶していなかったとすれば、この「忘却」という名を聞いてその名によって表示されているものを認識することは絶対に不可能ですから、忘却は記憶のうちに保持されています。